預金口座の調査が必要となるケース
遺産分割においては、本来あるはずの被相続人の預金が見当たらないケースや、そもそもどこの金融機関(銀行・信用金庫など)に預金があるのかがはっきりしないケースが、しばしば発生します。
例えば、被相続人である父親から生前「お前のために預金を残している」と言われていたのに、被相続人の財産を管理していた兄からは「そのような預金はない」の一点張りで、遺産に関して十分な情報開示をしてくれないといったケースなどがあります。
このようなケースでは、適正な遺産分割を進めるためにも、預金口座の中身を調べる必要があります。
預金契約と金融機関の開示義務
銀行などの金融機関に預金をすることは、預金者が金融機関との「預金契約」という一種の契約を締結することを意味します。
すなわち、預金者が金融機関に金銭の保管を依頼し、これに対して金融機関が預金者による払戻に応じて金銭の返還をすることのほか、公共料金等の自動支払、振込入金の受け入れ、利息の支払入金などの事務処理を行うことを内容とする契約なのです。
金融機関は、こうした預金契約に基づき、預金者の請求があれば、預金口座の残高証明書や取引履歴を開示する義務を負っています。
一方、金融機関は、預金者に対する守秘義務を負っているため、原則として、預金者以外の者に対して、預金口座の情報開示に応じることはありません。
被相続人の預金口座の開示請求
金融機関は、かつて、相続人の一人が行った被相続人の預金口座の取引履歴の開示請求について、他の相続人全員の同意がなければ、開示には応じない取り扱いをしていました。
しかし、平成21年1月22日の最高裁判決で、金融機関はこうした取引履歴の開示請求にも応じるべきであるとの判断が示されました。
そのため、現在では、金融機関は、相続人の一人から被相続人の預金口座の残高証明書や取引履歴の開示請求があった場合には、原則として応じる取り扱いとなっています。
したがって、被相続人の預金口座の存在や、取引の内容を確認したい場合には、相続人であることが分かる戸籍謄本類などの書類を金融機関に持参して、残高証明書や取引履歴の開示請求を行うと良いでしょう。
開示に当たって必要となる書類は何か、何年前の取引履歴まで遡れるか、開示のための手数料はいくらかかるかといった点は、金融機関によって異なるため、その金融機関にお問い合わせのうえで開示請求を行うのが良いでしょう。
また、手元にある預金通帳の口座以外にもその金融機関に預金があるかもしれないといった場合には、その金融機関に「名寄せ」を依頼することで、その金融機関の全支店の全種類の預金を洗い出すことができます。
「名寄せ」についても、相続人の一人が単独で行うことができます。
「名寄せ」を依頼する際の必要書類や手数料は、各金融機関によって異なりますので、その金融機関にお問い合わせのうえ、依頼してください。
遺産分割に当たって漏れがあるといけませんので、近隣の銀行、信用金庫、信用組合、ゆうちょ銀行については、「名寄せ」を依頼していただくのが良いでしょう。
「名寄せ」によって知らない預金口座が発見された場合には、残高証明書や取引履歴の開示を請求することが可能です。