被相続人の預金を払い戻したのがご自身ではなく、払い戻した預金の使い道について知らないのであれば、その旨を回答することになるでしょう。
また、被相続人の預金を払い戻したのがご自身の場合であっても、正当な理由があると認められるときは、返還を拒否することができます。
しかし、被相続人の預金を払い戻したのがご自身であり、正当な理由が十分に説明できないという場合には、ある程度の金額の返還を覚悟するべきです。

被相続人の生前に預金を使い込んだとして、他の法定相続人やその代理人の弁護士から、説明や返還を求める書面が送付されたり、返還を求める訴訟(裁判)を提起されたりした場合には、その回答・答弁は慎重に行わなければなりません。
回答内容が不自然・不合理であるとか、回答内容が前後で食い違っているとか、後々相手方から回答内容と矛盾する証拠を突き付けられるなどすれば、示談交渉において不利な立場に立たされますし、裁判官にも「この人の言っていることは、信用できない」という悪い心証を持たれてしまいます。

まず、被相続人の預金を払い戻したのがご自身ではなく、払い戻した預金の使い道について知らないのであれば、そのとおり回答して返還を拒否する対応になるでしょう。
ただし、相続人であれば、少なくとも直近5年分程度の払戻請求書・定期預金解約申込書の写しを入手できますので、簡単に暴かれる嘘をつくことはお勧めできません。
ここで、「被相続人の預金を払い戻したのは自分ではない」と言っておきながら、後々、払戻請求書・定期預金解約申込書の筆跡でご自身が払戻をしたのだと暴かれてしまうと、その先に主張することがすべて疑いの目を向けられてしまいますので、十分にご注意ください。

また、被相続人の預金を払い戻したのがご自身であったとしても、正当な理由があると認められる場合には、返還を拒否する対応となります。
例えば、次のような主張が考えられます。

①被相続人から頼まれて預金の払戻をし、被相続人に渡した。
このような主張が通るかどうかは、被相続人の財産管理能力、被相続人の生活状況、払い戻した金額、払戻を頼まれた経緯、払い戻した金額の使途に関する被相続人の説明の有無・内容、被相続人と払い戻した者との関係性などを考慮し、自然・合理的と言えるかどうかが判断基準になります。
例えば、被相続人が認知症・寝たきりで財産管理能力がないのに、多額の預金を払い戻して被相続人に渡し、その使途をまったく聞かされていないということになれば、不自然・不合理と判断される可能性が高いでしょう。

②被相続人から頼まれて預金の払戻をし、被相続人の医療費・生活費などの必要経費に使った。
このような主張が通るかどうかは、払い戻した金額、被相続人の医療費・生活費として合理的に必要と認められる金額、被相続人の年金などの収入の有無・金額などを考慮し、自然・合理的と言えるかどうかが判断基準になります。
例えば、被相続人に年金などの収入がないという状況で、被相続人が入院・入居する施設に医療費・施設利用料を支払っていたことを裏付ける領収証・明細書があり、その他の諸経費としても説明がつく程度の金額なのであれば、通常は反論が通るものと考えられます。

③被相続人から贈与された。
このような主張が通るかどうかは、払い戻した金額、被相続人と払い戻した者との関係性、被相続人の当時の認知・判断能力などを考慮し、自然・合理的と言えるかどうかが判断基準になります。
例えば、被相続人が認知症のために判断能力が相当衰えた状況で、多額の預金を払い戻して受け取っていたような場合には、不自然・不合理と判断される可能性が高いでしょう。

④被相続人の指示により、孫などに渡した。
このような主張が通るかどうかは、払い戻した金額、被相続人と払い戻した者との関係性、被相続人と受贈者との関係性、被相続人の当時の認知・判断能力などを考慮し、自然・合理的と言えるかどうかが判断基準になります。
例えば、被相続人が認知症のために判断能力が相当減退している中、多額の預金が払い戻されており、孫などに現金を手渡して贈与する動機に乏しいという場合には、不自然・不合理と判断される可能性が高いでしょう。

⑤被相続人の葬儀費用に使った。
被相続人の葬儀費用の負担については、相続人同士で話し合って決めるのが基本です。
しかし、話し合いがまとまらなければ、最終的には裁判所によって決着が付けられることとなります。
この点、葬儀費用は喪主の単独負担とするべきであるとする見解、相続人全員が公平に負担するべきであるとする見解などがありますが、裁判所は喪主の単独負担が相当であると判断する傾向にあります。

一方で、被相続人の預金を払い戻したのがご自身であり、正当な理由について説明がつけられないという場合には、ある程度の金額の返還を覚悟するべきでしょう。

被相続人の預金の使い込みが問題となる事案は、非常に専門性が高く、複雑・困難な分野です。
預金の使い込み問題でお困りの方は、専門家である弁護士にまずはご相談いただくことをお勧めいたします。