相続放棄をする場合に、被相続人が契約名義人となっている各種保険契約の取り扱いについて、ご質問いただくことが少なくありません。
一般に加入していることが多い保険としては、生命保険、自動車保険、火災保険であると思われますので、これらの保険契約の取り扱いについて、以下でご説明いたします。
1 生命保険
(1)被相続人を被保険者とする生命保険
相続放棄をする場合に生命保険金を受け取ることができるか?という問題がありますが、まずは保険契約上の保険金受取人を確認します。
保険契約上の保険金受取人は、保険証券を見れば記載されていますし、保険会社に問い合わせて確認することもできます。
保険契約上の保険金受取人が特定の相続人となっていれば、その相続人は相続放棄をする場合であっても生命保険金を受け取ることができます。
また、保険契約上の保険金受取人が「法定相続人」と指定されている場合についても、各法定相続人は相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができます。
一方で、保険契約上の保険金受取人が被相続人である場合、生命保険金は遺産に当たるものであるため、相続放棄をするのであれば受け取ることはできません。
もしこれを受け取ってしまうと、法定単純承認事由として相続放棄の効力があとあと否定されてしまいますので、ご注意ください。
なお、生命保険の契約では保険金受取人が指定されていないこともありますが、多くの保険会社の保険約款では「保険金受取人の指定がない場合は法定相続人を保険金受取人とする」旨の定めがあるため、多くの場合には相続放棄をする場合でも生命保険金を受け取ることができる例がほとんどです。
ただし、もし保険約款にこのような定めがない場合には、生命保険金は遺産に当たるものであると考えられ、相続放棄をするのであれば受け取ることができません。
(2)被相続人以外を被保険者とする生命保険
被相続人以外を被保険者とする生命保険は遺産に当たるものであるため、相続放棄をするのであれば引き継ぐことはできません。
そのため、相続放棄をするのであれば、契約名義を変更したり、解約したり、解約返戻金を受け取ったりしてはいけません。
もしこれらの行為をしてしまうと、法定単純承認事由に当たるものとして、あとあと相続放棄の効果が認められなくなりますので、注意が必要です。
2 自動車保険
被相続人名義の自動車に掛けられている自動車保険については、相続放棄をするのであれば、契約名義の変更や解約(解約返戻金の受け取りを含む)は行わないようにしましょう。
被相続人の保険契約を処分したものとして、法定単純承認事由に当たるとされる可能性があるためです。
なお、被相続人名義の自動車が手元にある場合の取り扱いは、次の関連Q&Aをご参照ください。
【関連Q&A】
●相続放棄をする場合に受け取れないものが手元にある場合は、どうすればよいですか?
一方で、相続人名義の自動車に掛けられている自動車保険の契約名義が被相続人である、というケースもあります。
この場合、被相続人名義の自動車保険を解約せずに自動車の名義人である相続人が新たに自動車保険に加入しようとしても、保険会社から「同じ自動車に二重に自動車保険を掛けることはできない。相続人が新たに自動車保険に加入するのであれば、被相続人が契約名義となっている自動車保険を解約する必要がある」と言われてしまうのが通常でしょう。
このような場合、自動車保険に加入せずに自動車を使用するか、その自動車の使用を諦めざるを得ないというのは不都合であるため、相続放棄をする場合であっても、被相続人が契約名義となっている自動車保険を解約することは許されると思われます(解約返戻金がある場合には、その解約返戻金には手を付けないようにしましょう)。
ただし、契約名義の変更は被相続人名義の自動車保険をそのまま引き継ぐことになるため、法定単純承認事由に当たると思われます。
したがって、契約名義の変更ではなく、解約して新たに自動車保険に加入するという方法で対応するべきであると思われます(以上、私見)。
3 火災保険
被相続人が契約名義人となっている火災保険については、相続放棄をするのであれば契約名義の変更や解約(解約返戻金の受け取りを含む)はしないようにしましょう。
法定単純承認事由に当たる可能性があるためです。
火災保険を掛けることが必要なのであれば、別途新たに火災保険を契約するようにしましょう。