はじめに~会社員の相続の特徴~
会社員の方が亡くなった場合、その方の財産について相続が発生しますが、一口に会社員といっても、その家族関係や収入などによって、自ずと保有している財産が異なります。
例えば、被相続人が大企業に勤めていた場合には、収入が大きいことから、
・預貯金口座が複数存在する
・住宅ローンを組んでいる
・退職金が発生する
・株式、財形などの財産を保有している
・自身や子供のために生命保険や学資保険に加入している
などといった可能性が考えられます。
ここでは、会社員が保有している可能性のある財産や、その遺産分割の手続きなどについて解説していきたいと思います。
1 会社員・元会社員が保有していることの多い財産
(1)預貯金
会社員であれば、少なくとも給与振込先口座を保有しているはずです。
会社によっては、給与を複数の口座へ分けて送金することを認めているところもあります。
また、最近では、ネット銀行を給与振込先口座として指定している方もいます。
給与振込先口座以外にも、用途に応じて複数の預貯金口座を保有していることが多いです。
相続人であれば、金融機関に問い合わせることで取引履歴の開示を求めることができますので、まずはこれに着手しましょう。
(2)不動産
居住している自宅やマンションが相続財産になることは容易に想像できると思います。
また、それ以外にも、被相続人がその親から引き継いだ土地や空き家などを保有している可能性があります。
そのため、固定資産台帳(名寄帳)を取得して、不動産の所在地を調査しましょう。
不動産の評価額の決め方については色々とありますが、
・固定資産評価額→市役所で入手できる固定資産評価証明書の記載額
・路線価→国税庁のウェブサイトで確認できる路線価図・評価倍率表により算出された金額
・市場価格→不動産鑑定士による鑑定額や不動産業者による査定額
などをもとに判断することとなります。
実際上は、固定資産評価額を用いる例が多いように見受けられます。
なお、被相続人が住宅ローンを組んでいた場合には、住宅ローンについても相続人が相続することになります。
しかし、多くの場合、住宅ローンを組む際に団体信用生命保険に加入しており、死亡保険金が下りて住宅ローンが完済されることになります。
この点は、住宅ローン会社に必ず確認するようにしましょう。
(3)退職金
すでに退職金を受領しているのであれば、被相続人の預貯金口座に入金されている可能性がほとんどでしょう。
他方で、受け取る前に亡くなったことで、死亡退職金という形となっている可能性があります。
死亡退職金については、本来被相続人が受け取る予定であった財産とみることができる一方で、残された遺族の生活のために設けられたものとみることもできます(前者であれば相続財産となりますが、後者であれば遺族固有の財産となり相続財産には当たらないものとされます)。
これらのいずれとして処理されるかについては、会社の死亡退職金の規定によりますが、例えば規定で「配偶者を第一順位の受給者とする」というように、民法上の規定とは異なる定めがされている場合には、遺族固有の財産とされる可能性が高いです。
なお、中小企業退職金共済(中退共)の死亡退職金は、規定で受取人が指定されているため、受取人固有の財産とされます。
(4)株式・投資信託
会社員によっては、株式や投資信託を行い、資産運用をしている方もいらっしゃいます。
また、大企業に勤務されている方の場合、自社の株式を保有している方もいらっしゃいます。
ほとんどの方は、証券会社に開設した証券口座を通じて株式等の売買を行っており、これと連動した銀行口座に配当や株式の売却代金が入金されることになります。
そのため、預貯金口座の取引履歴を確認することで、証券口座や証券会社が判明するでしょう。
その他、証券会社からの書類が自宅に届いている場合もあります。
そして、証券会社が特定できれば、その証券会社に問い合わせることで、株式・投資信託の内容を知ることができます。
証券会社がどこか分からない場合であっても、証券保管振替機構(上場株式の振替等を一括して行っている機関)に問い合わせることで、どこの証券会社に証券口座を開設しているかを調べることができます。
(5)財形貯蓄
財形貯蓄とは、貯蓄や持家取得や年金確保を目的として、給与から天引きによる方法で貯蓄を行う制度のことを指します。
財形貯蓄には、使い道が限定されているものと限定されていないものがあります。
いずれにしても、給与から天引きされて貯蓄されることから、給与明細を確認することにより、これらの有無や種類を把握することができるでしょう。
(6)保険
被相続人が保険に入っている場合、預貯金口座からの引き落としがあったり、保険会社からの書類が自宅に届いていたりするため、保険会社に問い合わせることで保険契約の内容を把握することができます。
もっとも、保険契約の内容によっては、遺産分割の対象とならないものもあります。
①死亡保険金
死亡保険金は、基本的には、被保険者が死亡したことを条件として、指定された受取人が保険金を受け取るものになります。
指定された受取人の固有の権利であるため、遺産分割の対象ではありません。
②解約返戻金
いわゆる積立型の保険の場合には、解約時に解約返戻金が発生します。
解約返戻金については、被相続人の貯蓄であるといえるため、遺産分割の対象となります。
③満期保険金
すでに保険が満期を迎えており、満期保険金が発生した後に受取人である被相続人が死亡した場合には、満期保険金の受領する権利を持ったまま被相続人が死亡したといえます。
そのため、満期保険金は遺産分割の対象となります。
2 遺産分割の手続き
遺産分割の手続きは、まずは相続人全員で遺産の分け方について話し合いにより取り決める方法(遺産分割協議と言います)で行うのが一般的です。
もっとも、相続人間で感情の対立がある場合や、疎遠な相続人がいる場合などには、話し合いで取り決めを行うことが困難なことがあります。
このような場合には、家庭裁判所の手続きを用いることになります。
具体的には、まずは、調停委員が間に入って話し合いを行う遺産分割調停という手続きをすることになります。
遺産分割調停では、争いになっているポイントを明らかにして、お互いに譲歩し合うことで合意の成立を目指していきます。
実際上、遺産分割協議または遺産分割調停までで解決に至ることがほとんどです。
もっとも、遺産分割調停の手続きも、あくまでも話し合いによるものです。
そのため、一人でも意見が合わない相続人がいる場合には、調停で合意して解決することができません。
このように、話し合いではどうやっても合意ができない場合には、最終的には、裁判官が判断する遺産分割審判という方法を取らざるを得ません。
遺産分割審判は、裁判官が一刀両断的な判断をするため、当事者の納得の有無に関わらず、これに従わざるを得ません(もっとも、遺産分割審判の手続きを行ったとしても、審判に至る前に和解が成立することがほとんどです)。
3 相続税申告
相続財産が一定程度ある場合には、相続人は相続税の申告をする必要があります。
具体的には、相続財産から、被相続人の借金や葬儀費用を差し引いた金額が課税対象価格になります。
そして、基礎控除額が3000万円+法定相続人の数×600万円と設けられています。
そのため、例えば法定相続人が3人いる場合には、課税対象価格が4800万円を超える場合には相続税が課税されることとなります。
また、課税対象価格が多くなればなるほど税率が高くなりますので、単純に相続財産の金額が多くなるほど相続税も高くなります。
4 二次相続対策について
二次相続とは、一方の配偶者が亡くなって相続が発生(一次相続)した後に、他方の配偶者も亡くなることで、もう一度相続が発生することを指します。
二次相続が発生すること自体はごく一般的なことなのですが、二次相続の際にかかる相続税の負担には注意する必要があります。
つまり、配偶者には配偶者の税額の軽減に関する制度があるため、一次相続の際には、配偶者に相当の相続財産が渡ることにより、相続税が問題にならないことも多いでしょう。
これに対し、子どもに対してはそのような制度が存在しないため、その後の二次相続では高額な相続税が発生する場合があるのです。
このようなことから、一次相続の段階から二次相続の場面を見越した遺産分割をすることにより、相続税の軽減を図っていくことが重要になります。
具体的には、一次相続の段階において、配偶者が多くの相続財産を相続しないように調整していく必要があります。
さらに、居住していた不動産を子どもに相続させた上で、配偶者居住権を設定することにより、配偶者は住居を確保しながら、配偶者居住権の分だけ課税対象価格を下げることができるようになります(また、一次相続の段階で子どもに相続させると、相続登記も1回で済みます)。
なお、宅地については、子どもが被相続人と同居していれば、子どもに相続させると、併せて小規模宅地等の特例という制度を利用することができる場合があるため、さらに相続税を軽減させることができます。
5 弁護士にご相談ください
このように、相続人が会社員である場合には、財産が多岐にわたり、その全容を把握するだけでも困難な場合があります。
そのため、相続に関して疑問や不安な点がございましたら、まずは専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。