1 背景

50代の女性から、亡くなった父(被相続人)の遺産分割に関するご相談をいただきました。

数年前、被相続人が亡くなり、お客様とお客様の弟(相手方)の2名が相続人となりました。
お客様と相手方との間では、遺産分割に関するやり取りが継続して行われ、最終的には、不動産については全て相手方が取得し、預貯金についてはお客様と相手方との間で相続分に従って分配する内容での遺産分割協議が成立しました。
被相続人の預貯金の合計額は約3200万円でしたので、お客様はその半分の約1600万円を取得する手はずとなっていました。

預貯金の解約・分配の手続などは全て相手方が行うということで、お客様は、相手方の指示に従って、書類を準備するなど手続に協力してきました。
その後、しばらく時間が経過しても、預貯金が振り込まれることはありませんでした。
お客様から相手方に対して、何度か催促を行ったところ、相手方からお客様に対して、送金手続を取ったとの連絡がありました。
しかしながら、お客様が預金口座を確認したところ、相手方からは700万円が送金されていただけであり、本来送金される予定だった約1600万円は送金されておりませんでした。
そのため、お客様から相手方に対して、説明を求めて連絡を試みましたが、相手方からは何も返答はありませんでした。

当事務所は、お客様から、相手方に残額を支払ってほしいがどうすればよいのか、自分の連絡は無視されてしまっていてどうすることもできないとのご相談を受け、相手方への請求手続をご依頼いただくことになりました。

2 当事務所の活動と結果

当事務所の弁護士は、ご依頼を受けてすぐに、相手方に対して、取り決めたとおりの支払を求める内容証明郵便を送付するとともに、同内容のメールを送信して、交渉を開始しました。
すると、相手方から返答があり、遺産分割協議成立後に、お客様が被相続人から多額の援助を受けていることが判明したため、その分を反映した金額を送金したまでであり、これ以上の金銭の支払には応じられないとの回答がなされました。
確かに、お客様が被相続人から一定の援助を受けていたことは事実でしたが、その援助はお客様のお子様の学費などに関する援助が主だったものであり、不相当に高額な援助とは言えないものであり、相手方においても被相続人からの援助を受けていたのではないかと考えられる状況でした。
また、お客様としては、相手方も、当初よりそのような援助がなされていたことは了解した上で遺産分割協議を成立させたのではないかと認識しており、今になってからそのようなことを言い出されても困惑するばかりでした。
そのため、当事務所の弁護士は、相手方の言い分に対して、反論・交渉を行いましたが、相手方の意向は変わらず、当方の要求には一切応じようとしませんでした。

そこで、当事務所の弁護士は、交渉による解決は困難であると考え、調停手続での解決を目指して、遺産分割後の紛争調整の調停を提起しました。
しかしながら、相手方は、その調停に欠席して調停の場に現れなかったため、調停は不調に終わってしまいました。

そのため、当事務所の弁護士は、相手方が話し合いに応じない以上、訴訟による解決を図るしかないと考えて、訴訟を提起することとし、成立した遺産分割協議に従って、残金である約900万円の支払いを求めました。
訴訟においては、相手方も弁護士を立てて、訴訟に臨んできました。
相手方は、交渉段階と変わらず、お客様が被相続人から多額の援助を受けていたことなどを理由として、当方の請求には応じられないと反論をしてきました。
相手方の反論の中には、お客様やお客様の家族に対するいわれのない非難も加えられておりましたので、当方としては、相手方の反論に対する再反論を行うとともに、相手方から非難されていることは事実無根であると主張し、訴訟を進めていきました。

その後、裁判所からは、おおむね当方の請求を認める旨の心証が開示され、和解による解決が提案されました。
相手方において和解の内容を検討して、相手方から和解案が提案されることとなりましたが、相手方からは、わずか約300万円を支払う内容の和解案が提案されました。
当方としては、到底受け入れることができない和解案であったため、一旦は和解による話し合いは打ち切られ、判決に向けて、尋問の手続が進められることになりました。

尋問手続においては、お客様と相手方の双方が裁判所に出頭し、それぞれ事実関係に関する供述を行いました。
尋問の場においても、お互いの言い分は並行線をたどり、相手方の態度は変わりませんでした。

尋問終了後には、裁判所から、再度和解による解決の提案がなされました。
裁判所からは、改めて、当方の請求を認める旨の心証が開示され、裁判所より、おおむね当方の請求を認める内容の和解案が提案されました。
その後、両当事者において、裁判所より提案された和解案を受け入れるかどうかを検討したところ、最終的には、相手方が850万円を支払う内容での和解がまとまり、解決に至りました。

3 所感

本件は、遺産分割協議が一度は成立したにもかかわらず、後になってからその内容を蒸し返されて争われるという事案でした。
遺産分割協議が成立した時点において重大な勘違いがあるような場合には、法律上、錯誤により無効とされる余地はありますが、基本的には、一度取り決めたものを後になってから覆すのは困難であると考えられます。
いずれにせよ、本件は、法的な検討を要する難しい問題も含まれておりましたので、法律の専門家である弁護士に対応をご依頼いただく必要性が非常に高かったと考えられます。

また、本件は、相手方の態度が非常に硬直であり、当事者ご本人で対応することが困難な事案でした。
このような場合には、交渉や訴訟などに長けた弁護士に対応を依頼することで、ご自身で対応する負担から解放され、より適正な解決を目指すこともできると考えられます。

4 お客様の声

姉弟間でこの様な事がある事は知っていましたが、まさか自分の身にふりかかるとは思っていませんでした。
お互いの関係は、悪くなってしまいましたが、今まで精神的に追いつめられていたので、結果的に相談して解決した今は、本当に相談して良かったと思っております。
先生達には、色々とお世話になりありがとうございました。

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