相続放棄の手続を取ることが必要とされる相続人が、判断能力(意思能力)が欠けているとされるほどに重度の認知症の場合には、自分で相続放棄をすることができません。
そして、ご家族が勝手に、その認知症の方の相続放棄の手続をすることもできません。
認知症で判断能力がない相続人の相続放棄をするためには、成年後見制度を利用する以外に方法はなく、その相続人に代わって相続放棄の手続をする成年後見人を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。
家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てて、成年後見人が選任されたら、その成年後見人が、認知症の相続人の代わりに、相続放棄の手続をすることになります。
相続放棄ができる期間は、被相続人の死亡を知り、自分が相続人となったことを知った時から3か月以内と定められています。
もっとも、成年後見人が相続放棄の手続をする場合には、成年後見人が選任されて被相続人の死亡を知ってから3か月以内となります。
そのため、後見人の選任の手続の途中で3か月が経過することに対する心配はありません。
注意点としては、ご家族が成年後見人になることはできますが、利害関係が対立する場合には、成年後見人として相続放棄はできないということです。
例えば、父親が亡くなって多額の借金があった場合に、母親が重度の認知症であるため、相続放棄をするために、子が母親の成年後見人になったとします。
この場合、子も相続人であるため、母親と子が同時に、または子が先に相続放棄をしていない限り、子が母親の成年後見人として相続放棄をすることはできません(逆に言えば、母親と子が同時に、または子が先に相続放棄をしていれば、子が母親の成年後見人として相続放棄することができます)。
また、例えば、子のない被相続人が死亡し、被相続人の父親はすでに死亡しており(なお、父親・母親の両親・祖父母などもすでに死亡)、被相続人の母親は存命ながら重度の認知症であり、被相続人の兄弟姉妹として弟が1人いるとします。
そして、母親が相続放棄をするためには成年後見人の選任が必要ですが、弟が母親の成年後見人となったとします。
この場合、母親が相続放棄をすれば相続権が弟に移るという関係上、弟が母親の成年後見人として相続放棄をすることはできません(そして、母親が相続放棄をしなければ弟に相続権がありませんので、母親と弟が同時に、または弟が先に相続放棄をすることはできません)。
そこで、母親が相続放棄をするための特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てるという手続をとる必要があります。
このように、相続放棄の手続を取ることが必要とされる相続人が認知症の場合には、成年後見制度の利用など、相続放棄以外にも煩雑な手続を取らなければなりません。
認知症の相続人がいる場合の相続放棄でお困りの方は、一度、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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