相続放棄の撤回はできない
相続放棄の申述(申立て)が裁判所で一旦受理されると、被相続人の死亡を知ってから3か月以内であったとしても、相続放棄の撤回をすることはできません。
しかし、相続放棄の申立書類を裁判所に提出した後でも、裁判所に受理される前であれば撤回が可能です。
もし相続放棄の申立書を裁判所に提出した後に気が変わったという場合には、早急に裁判所で取下げの手続を取る必要があります。
相続放棄の取消しができるケース
相続放棄の申述が受理された後は、単に自分の気持ちが変わったというだけでは、相続放棄の取消しは認められません。
しかし、以下に挙げるようなケースに該当する場合には、例外的に相続放棄の取消しができます。
①未成年者が法定代理人(親権者など)の同意を得ないで相続放棄をした場合
②成年被後見人が自ら相続放棄をした場合
③被保佐人が保佐人の同意を得ないで相続放棄をした場合
④後見監督人がいるのに、被後見人もしくは後見人が後見監督人の同意を得ずに相続放棄をした場合
⑤詐欺または強迫によって相続放棄をした場合
上記の⑤については、例えば、他の相続人から「被相続人には借金しかない」と騙されて相続放棄をしたとか(詐欺)、「相続放棄をしないと危害を加える」と脅されて相続放棄をしたなど(強迫)の場合が該当します。
以上のような理由に基づいて相続放棄を取り消すためには、裁判所に相続放棄の取消しの申述(申立て)を行って受理される必要があります。
そして、相続放棄の取消しの申立ては、追認できる時(上記の⑤のケースであれば、騙されていることに気付いた時または強迫から逃れた時)から6か月以内に行う必要があり、6か月の期限を経過すると取消しができなくなります。
また、相続放棄の時から10年が経過した場合も、相続放棄の取消しを行うことができなくなります。
相続放棄の無効が主張できるケース
相続放棄の申立てをして受理された場合であっても、錯誤(勘違い)に基づいて相続放棄がされたのであれば、相続放棄は無効となります。
相続放棄の無効の主張は、相続放棄の取消しとは異なり、裁判所に申述(申立て)を行う等の手続が法律上規定されていません。
相続放棄の無効の主張が必要な場合に、民事訴訟において無効の主張を行っていくことになります。
例えば、被相続人の債権を相続したと相続人が主張し、債務者に対して支払を請求する民事訴訟を提起したとします。
これに対して、債務者から「相続人は相続放棄をしたのだから、被相続人の債権を相続していないはずだ。したがって、被相続人の債権を相続したことに基づく請求は認められない」との反論が出たとします。
このような場合に、「相続放棄は無効である。したがって、被相続人の債権を相続したことに基づく請求は認められる」といった再反論をしていくことなどが考えられるのです。
相続放棄における錯誤の例としては、「被相続人には借金しかないと思っていた」というのが典型です。
このように相続放棄を行う動機について錯誤がある場合において、錯誤による相続放棄の無効を主張するためには、相続放棄に当たってその動機が表示されていることが必要であると考えられています。
この点、相続放棄の申述書(申立書)には、ご自身が把握している被相続人の財産や、相続放棄をする理由を記載することが通常ですので、「被相続人にはプラスの遺産(資産)がほとんどなく、マイナスの財産(負債)が多い。したがって、相続放棄の手続をしたい」などの記載をしていれば、錯誤による相続放棄の無効を主張できるのが通常です。
もっとも、相続放棄における錯誤がある場合でも、重大な過失(普通の人であれば錯誤に陥ることがないのに、著しく不注意であったために錯誤に陥ったこと)が認められるときは、相続放棄の無効を主張することができなくなります。
やはり、相続放棄をするかどうかの選択は、慎重に行っていただきたいと存じます。
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