1 医師によくある相続財産の特殊性
医師の相続財産には、その他の職業の人の相続において通常問題となる土地・建物や預貯金とは別に、医師が保有しなければ無意味な財産が多く含まれることになります。
プラスの相続財産として代表的なものは、医療法人の財産となる出資持分であるとか、病院・診療所の土地・建物、レントゲンやCT、放射線治療装置等の医療機器、診療報酬請求権等が挙げられます。
マイナスの相続財産として代表的なものは、病院・診療所の土地・建物を購入・建築した際の借入金、医療機器の分割購入費・リース代、運転資金、従業員への給与・退職金等があります。
個人で経営している病院や診療所では、医師の資格を持っている特定の相続人に、上記の資産や負債を相続させ、他の相続人にはそれ以外の資産を相続させることで、経営を受け継がせることが可能となります。
一方で、医師資格を持たない相続人にとっては、上述した財産を相続しても運用の仕方に困ることでしょう。
このように、医師の財産には、医師資格を持つ人には有益な財産であっても、それ以外の相続人にとっては使い途がない財産があるので、そのような特殊性から医師資格を有する者に特定の相続財産を配分するという、医師に特有の相続問題が生じることになります。
2 病院・クリニックの跡継ぎの問題
相続人の中に医師資格を有する者とそうではない者がいることは、当然に想定されます。
医師資格を持つ相続人が一人だけなら、その特定の相続人が病院を継げるように相続財産を分配し、その他の相続人には残った財産を分配することが考えられます。
医師資格を持つ相続人が大学病院などでキャリアを積みたいと考えれば、相続を希望しないといったこともあるでしょう。
このように、医師の相続においては、医師資格を持った者による相続という跡継ぎ問題が生じることになるので、相続が発生した時点でまだ子どもが若く、娘婿や甥などに病院を引き継がせたいと考える場合には、より複雑な問題が生じることになります。
このような相続問題に対処するためには、その他の通常の相続問題よりも、より早く相続問題に取り組む必要があります。
また、一代で開業した個人開業医などのように、親族間で共同経営しているような場合には、親族間で病院経営を巡る紛争や、相続財産が他の親族との間で共有状態になっているというように、より困難な問題が生じる可能性もあります。
これに対して、相続人に医師資格を持つ者がいない場合には、病院を引き継いでくれる人物を別に探すことが可能ですが、相続が始まった後の時間がない状況で買い手を探すことになれば、経営資産の安価な売却を迫られる恐れがあります。
このような場合には、被相続人の生前から後継者候補を探し、適正価格での譲渡交渉をしていくことが重要です。
3 医師の相続問題の解決方法
(1)遺言書の作成
医師の相続に限らず、相続問題を事前に調整しておくためには、遺言書を作成しておくことが有効です。
遺言書を作成しておくことで、医師資格を有する特定の相続人に対し、医師に特有の相続財産を集中させることができます。
医師に特有の相続事情を踏まえて、利害関係者から十分に聞き取りを行い、将来、不満を抱える人が少ないような遺言書を作成する必要があります。
もっとも、相続財産を特定の相続人に集中させる場合、その他の相続人の遺留分を侵害することになる可能性があります。
相続後に遺留分侵害額請求がされることを防ぐためには、医師資格を有する相続人に対し、医師に関する相続財産をすべて取得させることが被相続人の真意であると、遺言の付言事項としておくこと等により、事実上の予防措置を講じておくことが有益です。
(2)遺産分割協議・遺産分割調停
遺言書がない場合には、遺産分割協議、遺産分割調停によって相続財産の帰属先を決めることになります。
医師に特有の財産は、相続人各自によって主観的な評価を伴うことが多いので、遺産分割協議において、相続人間で十分に意見を調整することになります。
相続人間での感情的な対立が激しく、当事者同士での話し合いができない場合には、調停という家庭裁判所を通じた手続きを利用することができます。
この調停という手続きは、調停委員を通じて相続人同士で話し合いを行うものですが、調停委員は医師に特有の相続事情に詳しくはありませんので、一般的なその他の相続の調停よりも、相続人各自が弁護士を代理人とする必要性が高いと言えます。
4 弁護士にご相談ください
以上のように、医師の相続の場合には、相続財産、後継ぎ問題など、医師に特有の相続問題が生じることになります。
医師に特有の相続問題でお困りでしたら、ぜひ一度、お気軽に当事務所までご相談ください。