1 はじめに
遺産分割は、相続人が複数いる場合に行われます。
そして、その相続人全員で、遺産をどのように分けるかについての話し合い(遺産分割協議)を行うことになります。
遺産分割協議が無事にまとまれば、合意できた遺産の分け方にしたがって、不動産の名義変更や預貯金の解約・払戻しなどの手続を行います。
しかし、相続人の中で、法定相続分を越える割合の相続分を主張する者がいたり、どの遺産を誰が取得するかなどで話し合いが難航したりした場合には、いくら遺産分割協議を重ねても相続人全員が納得できる形でまとまらない可能性があります。
遺産分割協議の成立には相続人全員による合意が必要なので、1人でも納得しない相続人がいれば遺産分割協議を成立させることはできません。
遺産分割協議でまとまらなかった場合には、遺産分割調停に進むことになり、調停の中で、遺産分割の成立を目指すことになります。
このコラムでは、遺産分割調停の内容や手続の流れ、遺産分割調停に進むケースをご紹介するとともに、遺産分割調停の弁護士費用についても、解説いたします。
2 遺産分割調停とは?
遺産分割調停は、遺産分割協議で話し合いがまとまらなかった場合に、遺産分割の方法について、家庭裁判所の場で話し合うための手続です。
家庭裁判所の場では、裁判官と調停委員が中立の立場でそれぞれの相続人から言い分を聞き取り、話し合いを整理して解決に導きます。
もっとも、遺産分割調停は、あくまで話し合いの手続きであるため、調停が成立に至るためには、遺産分割協議と同様に、相続人全員による合意が必要です。
協議で難航していた話し合いが、調停になったとたんにすぐに合意に至るということは稀です。
裁判官と調停委員が相続法の観点から話し合いを整理したり、アドバイスをしたりしても、全く聞く耳をもたない相続人も当然います。
そのため、遺産分割調停が1回の期日だけで終わることは稀で、調停の成立までに3回以上の期日が開かれるのが一般的です。
期日から期日までの間は1か月から1か月半程度が空くため、遺産分割調停の申立てから終結までには、おおむね半年から1年程度と、一般的にかなりの期間がかかります。
遺産分割調停の場では、当事者である相続人が直接顔を合わせて対峙するわけではなく調停委員が相続人から交互に言い分を聞く形で進行していきます。
また、家庭裁判所内では、待合室も相続人それぞれで分かれていて、基本的に相続人同士が顔を合わせることがないように配慮されています。
3 遺産分割調停に進むケース
以下のような場合には、遺産分割協議の成立は難しく、遺産分割調停に進むケースといえるでしょう。
要するに、自分達(当事者である相続人達)だけでは手に負えない状況になったら、遺産分割調停に進むケースといえるでしょう。
〇遺産分割協議を重ねても合意できない
〇相続人の中に遺産分割協議に参加してくれない(話し合いに応じない)相続人がいる
〇連絡がとれない相続人がいる
〇相続人同士で折り合いが悪く、話し合いにすらならない
〇相続人の中に生前贈与を受けた者がいるが、本人が認めない
〇相続人の中に寄与分を主張する者がいて、自分の主張を一切譲らない
4 遺産分割調停は自分で進められる?
遺産分割調停は、弁護士に依頼することなく、申立てから、調停の中での話し合い、そして調停の成立まで、自分で手続きを進めることは可能です。
もっとも、自分で対応した場合は、必要書類の収集・書面の作成や相手方との交渉に不慣れなために、スタートである申立てからつまずき、さらには、話し合いも自分の思うような方向に進まず、結果として利益を損なうリスクが高くなります。
遺産分割調停での話し合いにおいては、手続の理解や法的な知識が必要になる場面も多くあります。
もちろん、調停委員も手続の説明をしてくれますが、調停委員はどちらかの味方をするわけにはいかないので、その人にとって有利になるような論点を教えてくれるわけではありません。
例えば、特別受益や寄与分などは、主張する人が積極的に証拠を集めて裁判所に提出しない限りは認められないものです。
自分で遺産分割調停を行う人の中には、このような主張ができること自体を知らないか、知っていて主張したけれども、有効な証拠が何なのかわからないまま、その主張が認められないという結果になっていることもあります。
最近は、インターネットでも、遺産分割に関する情報を手軽に取得することができますが、中には情報の正確性に問題がある情報もあります。
また、相続に関わる状況は事案によって様々ですから、全てのケースでインターネットの情報が有効に使えるとは限りません。
結論として、自分で対応することも可能ではありますが、遺産分割協議が難航して遺産分割調停を申し立てるようなケースでは、弁護士に依頼する方が、メリットも多く、自分で対応するよりも良い結果になることが多いといえるでしょう。
5 遺産分割調停の流れ
(1)申立て
遺産分割調停は、申立てからスタートします。
その申立てにあたり、まずは、遺産の内容を調査します。
また、戸籍謄本などの資料を入手し、誰が相続人であるかについてきちんと調査・確認することも必要です。
相続人が全く知らないところで、実は認知した隠し子がいたことが明らかになるケースもあります。
遺産分割の合意は、一人でも相続人を欠けば、その合意は無効となりますので、後から相続権を主張してくる人物がいないか十分に調査・確認したうえで遺産分割調停へと進まなければなりません。
遺産分割調停では、1人または複数の相続人が申立人となり、裁判所用のほか、他の相続人全員の人数分の申立書の写しも作成して提出します。
申立先は、相手方(他の相続人)の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
(2)第1回期日の呼出状が届く
調停の申立てをすると、数週間ほどで申立人と相手方となる相続人へ第1回期日の呼出状が届きます。
そこには「どこの家庭裁判所でいつ調停が開かれるか」が書いてあります。
申立ての受理後は、裁判所が遺産分割調停の期日を決定します。
この期日に家庭裁判所が申立人と相手方(他の相続人)を呼び出し、遺産分割調停を行います。
(3)第1回期日が開かれる
呼び出された日に家庭裁判所に行き、出席した相続人間で話し合いが始まります。
相手方とは別々の待合室で待機し、話をするときには、調停室に入って調停委員に対して話をします。
相手方の話は調停委員から伝えられ、自分の希望は調停委員から相手方へ伝えてもらうということになります。
遺産分割調停では、男女差で意見に偏りが出ないよう公平を期するために、男性1名・女性1名の調停委員が担当しています。
(4)月1回程度の話し合いが継続される
遺産分割調停が1回の期日だけで終わることは稀で、その後は月1回程度の頻度で調停期日を開き、第2回、第3回というように、解決するまで続けます。
なお、裁判官は、調停期日の進行中は、調停委員との評議によって進捗状況を把握していますが、基本的には毎回の期日で調停室に同席することはありません。
(5)遺産分割調停の成立または不成立
調停によって全員が合意できれば遺産分割調停が成立し、まとまらなければ遺産分割調停は不成立となります。
遺産分割調停の申立てから終結までには、おおむね半年から1年程度、長引けば1年以上と、一般的にかなりの期間がかかります。
不成立の場合、自動的に遺産分割審判という手続へと移行し、裁判官主体で進められます。
この遺産分割審判では、裁判官が相続人から提出された資料などを確認し、必要に応じて相続人から聴取した上で、最終的な遺産分割の方法を裁判所が決定します。
6 遺産分割調停を弁護士に依頼するメリット
先ほども述べたように、遺産分割調停を自分で進めることは可能ではありますが、弁護士に依頼するほうがより有利に進められます。
弁護士は代理人として調停委員との間に入り、依頼者の利益が最大になるような結果を模索してくれるので、そのことだけでも、弁護士に依頼するのが最善といえるでしょう。
以下に、遺産分割調停を弁護士に依頼する主なメリットを紹介します。
(1)話し合いを有利に進めやすくなる
弁護士に依頼するメリットの一つは、遺産分割調停における話し合いを有利に進めやすくなることです。
遺産分割調停は話し合いの手続であるとはいえ、あらかじめ主張書面を用意したり自身の主張を裏付ける証拠を揃えたりすることで、有利となりやすくなります。
弁護士へ依頼することで、その状況に応じた書類を作成してもらえるほか、必要な証拠を漏れなく揃えて提出することが可能となります。
また、調停当日に弁護士に同席してもらったりすることで落ち着いて対応しやすくなり、この点からも調停を有利に進めやすくなるでしょう。
そして、依頼人の利益が最大限になるように動いてもらえるため、依頼するかどうかで結果が大きく変わる可能性もあり得ます。
なお、状況によっては、弁護士だけが調停に出席する対応も可能です。
(2)申立ての準備を一任できる
遺産分割調停の申立ての際には、戸籍謄本や住民票、不動産登記事項証明書などの様々な資料の提出が必要です。
弁護士に依頼するメリットの2つ目は、こうした必要書類の準備を任せることができることです。
提出書類に漏れがあると無駄な時間がかかるため、遺産分割調停の解決までの時間が延びてしまいます。
申立てに必要となる書類は、次のものなどです。
【作成が必要な書類】
・申立書
・当事者等目録
・遺産目録
・相続関係図
・申立ての実情
【集めて提出すべき書類】
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本などすべて
・相続人の確定に必要な戸籍謄本や除籍謄本など
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・被相続人の除票または戸籍の附票
・相続人全員の住民票
【遺産の内容によって必要となる書類】
・不動産:登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税評価証明書
・預貯金:通帳または残高証明書・取引履歴
・有価証券(株式や投資信託など):残高証明書
・自動車:車検証または運輸支局等が発行する登録事項証明書
【その他、ある場合に必要となる書類】
・遺言書の写し
・相続税申告書の写し
これらをすべて自分で作成したり収集したりすることは、容易ではありません。
弁護士に依頼すると、弁護士が書類の作成や書類の収集などを行ってくれるため、手間や時間を大きく削減できるうえ、自分の主張を効果的に伝える書面を作成してもらえるため安心です。
(3)相手方や裁判所との連絡の窓口になってもらえる
弁護士に依頼するメリットの3つ目は、連絡の窓口になってもらえることです。
弁護士に依頼することなく遺産分割調停を進める場合は、相手方や裁判所などからの連絡が直接入ることとなります。
この点にストレスを感じてしまう人も少なくないでしょう。
弁護士へ依頼する場合は、弁護士が窓口となってくれるため、相手方や裁判所からの連絡が直接入ることは避けられます。
(4)自分に利益となる法的主張を漏れなく伝えてくれる
遺産分割調停での話し合いにおいては、法的な知識や技術が必要になる場面も多くあります。
そして、調停委員はどちらかの味方をするわけにはいかないので、その人にとって有利になるような論点、例えば自分の寄与分や相手方の特別受益などを教えてくれるわけではありません。
この点で弁護士は、依頼者の代理人として、依頼者の利益となる法的主張を漏れなく伝えることができます。
(5)調停委員への交渉力がある
弁護士は調停委員に対する交渉力があるため、調停を有利に進められる可能性があります。
なぜなら、法的な根拠に基づいた主張ができるため、調停委員を納得させやすいからです。
法律のことをよく知らないと、逆に調停委員から、実際は自身が損をするような遺産分割協議案を提案されてしまう可能性もあります。
弁護士は法律の専門家であるため、調停委員側も弁護士の主張にしっかり耳を傾けることになるからです。
(6)遺産分割審判に移行してもそのまま対応を任せることができる
弁護士に依頼するメリットの最後は、遺産分割審判に移行しても対応を任せることができることです。
遺産分割調停を経ても意見の合意が得られない場合は、調停が不成立となります。
この場合は、自動的に遺産分割審判へと移行します。
遺産分割審判とは、遺産分割調停による解決が難しい場合に、裁判所に遺産の分け方を決めてもらう手続きです。
遺産分割調停の対応を弁護士へ依頼する場合は、たとえ調停が不成立となり遺産分割審判に移行しても対応を任せることができるため、安心です。
6 遺産分割調停をご依頼いただく場合の弁護士費用
弁護士に依頼するにあたり、どのくらいの費用がかかるのか確認しておきましょう。
基本的に、遺産分割調停における弁護士費用は、相談料と着手金、報酬金を合わせた金額です。
遺産分割によって得た金額や法律事務所の料金体系によって費用は異なります。
(1)相談料
相談料は、弁護士に相談する際にかかる費用です。
弁護士に話を聞いてもらった段階で発生する費用であり、30分5000円(税別)、1時間1万円(税別)、初回の相談は無料など、弁護士によってさまざまです。
当事務所では、遺産分割調停など相続に関するご相談を初回無料でお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。
(2)着手金
遺産分割調停の対応を弁護士に依頼する場合、依頼をする時点で着手金が発生することが一般的です。
着手金は、依頼を受けて実際に動き出す際に必要な費用で、良い結果になったかどうかに関係なく支払う必要があります。
固定で30万円(税別)~50万円(税別)を定めるとか、経済的利益(獲得した遺産の額)が300万円以下の場合は当該金額の8%(税別)、300万円~3000万円まで5%(税別)+9万円(税別)などといったように、遺産分割で求める経済的利益に応じて変わる場合もあります。
遺産分割調停への対応を弁護士へ依頼する場合、依頼をする時点で着手金が発生することが一般的です。
(3)報酬金
報酬金は、遺産分割調停が解決したときに成功報酬として支払う費用です。
報酬額も弁護士によって料金が異なります。
例えば、経済的利益で計算する場合、経済的利益が300万円以下の場合は当該金額の16%(税別)、300万円~3000万円までは10%(税別)+18万円(税別)といったように、着手金よりも高く設定されています。
もっとも、経済的利益をどのように考えるかによって金額が変わってきます。
(4)出張日当、出廷日当や実費、事務費
出張日当は、弁護士が遠方に赴く際に支払う費用です。
一般的には、遠方への1日出張で5万円(税別)程度、遠方への半日出張で3万円(税別)程度が目安となります。
また、調停の場合、一回の期日が長時間に及ぶため、期日(出廷回数)が一定回数を超えた場合に日当が発生する、出廷日当を設定している法律事務所もあります。
一方で、実費は遺産分割調停を行う際に必要となる諸費用です。
裁判所に調停を申し立てる際にかかる印紙代や郵便切手代、交通費などが実費に含まれます。
遠方への出張がなければ、1万円〜5万円の範囲内に収まることが多いでしょう。
さらには、内訳・明細の提示が困難な諸経費に充当するものとして、固定額の事務費を設定している事務所もあります。
【遺産分割調停にかかる弁護士費用の一例】
遺産分割調停にかかる弁護士費用の一例として、当事務所の弁護士費用等を基準に、依頼者が受け取る遺産総額が700万円の場合を見ていきます。
当事務所では、初回相談は無料となります。
遺産分割調停の着手金は固定の33万円(税込)で設定されているため、着手金として33万円を弁護士に支払って依頼します。
また、固定額の事務費として1万1000円(税込)が設定されているため、こちらも依頼時に合わせて弁護士に支払います。
依頼者を含む相続人全員が市内に住んでおり、市内の家庭裁判所で遺産分割調停が行われたことから、弁護士が遠方に出張することはなかったため、出張日当は発生しませんでした。
調停期日を5回重ね、申立てから8か月後、調停が成立したため弁護士に報酬金を支払います。
報酬金は、経済的利益に対して、3000万円以下の場合は13.2%(税込)と設定されているため、92万4000円(700万円×13.2%)となりました。
このほか、実費として、申立ての際の印紙代・切手代、戸籍取得費用などで2万円かかりました。
調停期日日当は、調停期日が5期日を超える場合に6期日目から発生することから、今回は発生しませんでした。
結果として、遺産分割調停にかかった弁護士費用は、総額128万5000円(相談料0円+着手金33万円+事務費1万1000円、報酬金92万4000円+出張日当0円+調停期日日当0円+実費2万円)となりました。
7 遺産分割調停については当事務所にご相談ください
遺産分割調停は、弁護士に依頼することをお勧めいたします。
なぜなら、弁護士に依頼することで調停を有利に進め、自分の利益が最大限になるように動いてもらえるほか、必要書類の収集・提出や書面の作成などを任せることができるためです。
遺産分割調停について弁護士に依頼すると、弁護士費用として、着手金のほか報酬金(成功報酬)が必要となるのが一般的です。
ただし、報酬体系や報酬額は各法律事務所によって異なるため、実際に依頼を検討する際は、依頼したい法律事務所へ個別に弁護士費用を確認することをお勧めいたします。
また、遺産分割調停は申立てから終結までに半年から1年程度のかなりの期間を要することが一般的で、弁護士との関わりも長期となる傾向にあります。
そのため、弁護士の相続に関する知識や弁護士費用の明確さに加えて、弁護士との相性も含めて依頼する法律事務所を検討するとよいでしょう。
(弁護士・山口龍介)