平成30年7月6日に、民法の相続分野に関する規定が、約40年ぶりに改正されました。
改正された点は、今後発生する相続において、大きな影響が想定されます。
以下では施行日ごとに、主要な改正点をご説明いたします。

平成31年1月13日に施行された制度

自筆証書遺言の方式の緩和

改正前は、自筆証書遺言を作成する場合、その全文を自分で書かなければならないと定められていました。
これは特に高齢者の方にとってかなりの労力を伴うものであって、利用しづらい制度となっていました。
改正法では、遺言書に相続財産の目録を添付する場合、遺言作成者が自分で財産の目録を書かなくてよいこととなりました(ただし、偽造・変造を防止するために、各目録に署名押印をする必要があります。また、自筆しなくてもよいのは、財産の目録部分に限られます)。
そのため、不動産の登記事項証明書や、預金通帳の写し等を財産目録として添付することができるようになり、自筆証書遺言を作成するのが以前より容易になったといえるでしょう。

令和元年7月1日に施行された制度

1 相続における権利の承継に関する規律

改正前は、遺言による財産の取得を第三者に主張するために登記等を備える必要の有無について、明文で規定が設けられていなかったため、複数の最高裁判所の判断に従って登記等を備える必要の有無を判断していました。
もっとも、このような運用では、一般の国民が相続による財産の取得を第三者に主張するために登記等を備える必要があるかを判断することが困難であること、最高裁判所の判断に従えば、事案によっては遺言に従った登記がなくとも、第三者に主張することができるとしているものもあり、不動産登記制度に対する信頼を害するおそれがあったことから、改正が行われました。
改正法では、遺産分割または遺言(相続分の指定、特定財産承継遺言)により承継した権利のうち、法定相続分を超える部分については、登記等を備えなければ、第三者に対抗することができないとの規律を設けました。

2 遺産分割等に関する見直し

⑴ 持戻し免除の意思表示の推定規定の創設

ある相続人が被相続人から生前贈与や遺贈を受けた場合には、遺産分割のときにその相続人が取得できる相続分が、生前贈与や遺贈を受けた分だけ減らされてしまうのが原則です。
改正前は、夫婦間において、被相続人から配偶者に対して居住用不動産(住宅及び敷地)の生前贈与が行われた場合についても、他と区別されず、これに従い処理されていました。
もっとも、このような制度については、遺産の形成に対して配偶者が貢献したことを十分に反映されない結果が生じる可能性がある、配偶者の生活の本拠である住居を適切に確保されないおそれがあるという問題があると指摘されていました。
そこで改正法は、
①婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が死亡した場合であること
②死亡した方が、配偶者に対して、居住用の建物又はその敷地について遺贈または贈与をしたこと
の2つの要件をみたす場合には、被相続人が、配偶者の具体的な相続分の額から遺贈または贈与した価格を控除させないという意思表示をしたと推定するとの規定を設けました。

※この制度について詳しく知りたい方は次のリンク先ページをご覧ください。
●婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

⑵ 遺産分割前における預貯金の払戻制度の創設

平成28年に、預貯金が遺産分割の対象になることが、最高裁判所において判断されました。
この最高裁判所の判断により、遺産分割が成立するまでは、預貯金を引き出すためには相続人全員の同意が必要になることが懸念されました。
そこで改正法は、最高裁判所の判断を踏まえつつも、一定の限度で、相続人が単独で預貯金を引き出すことができる制度を創設しました。
この引き出した預貯金については、遺産の一部分割により取得したものとみなされます。

※この制度について詳しく知りたい方は次のリンク先ページをご覧ください。
●被相続人の死亡後の預金払戻について

⑶ 遺産の一部分割制度の創設

改正前の民法においては、遺産の一部分割制度について明文の規定はなく、争いのない遺産について先行して一部分割を行うことが遺産分割事件を早期に解決するためには有益な場合があるため、法解釈上一部分割が許されるべきだと考えられていました。
そこで改正法は、遺産の一部分割ができることを明示するとともに、その規律を定めました。
その規律の概要は以下のとおりです。
・まず、相続人は、死亡した方が遺言により、一定期間遺産の全部または一部の分割を禁止した場合を除いて、いつでも、協議によって遺産の一部分割をすることができます。
・次に、相続人間で遺産分割の協議が調わない場合や協議をすることができない場合には、遺産の一部分割をすることにより他の相続人の利益を害するおそれがある場合を除いて、家庭裁判所に対して、一部の遺産分割を申立てることができます。

3 遺留分制度に関する見直し

⑴ 遺留分侵害額請求の効果について

改正前は、遺留分減殺請求の結果、遺贈または贈与の目的財産が、受遺者や受贈者と遺留分権利者と共有になることが多く、この共有状態を解消するために新たな紛争が生じることも少なくありませんでした。
改正法では、このような問題点を解消するために、遺留分減殺請求という概念を「遺留分侵害額請求」に変更するとともに、遺留分侵害額請求という名称のとおり、遺留分の侵害額に相当する金銭を請求できる制度に変更しました。

※こちらについて詳しく知りたい方は次のリンク先ページをご覧ください。
●遺留分侵害額請求の効果

⑵ 遺留分、遺留分侵害額の算定方法の明確化

改正前は、遺留分や遺留分侵害額の算定方法について、条文の文言では、その内容が一見して明らかでなく、法解釈や最高裁判所が示した算定方法により計算されていました。
改正法においては、これらの算定方法について、明文で定められました。

※遺留分の算定について詳しく知りたい方は次のリンク先のページをご覧ください。
●遺留分の算定

4 相続人以外の者の貢献を考慮するための制度の創設

改正前は、被相続人の療養看護に努めた者等を「特別縁故者」と定め、相続人として権利の主張をする者がいない場合に、特別縁故者からの請求によって相続財産の一部または全部を特別縁故者に与えていました。
もっとも、相続人がいる場合にはこの制度を利用することができず、相続人の配偶者が被相続人の療養看護に努め、被相続人の財産の維持または増加に寄与したとしても、何らの請求もできなかったため、不公平であると指摘されていました。
そこで、改正法は、特別縁故者の制度をそのまま残すとともに、新たに、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより特別の寄与をした被相続人の親族を「特別寄与者」と定め、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与料の支払を請求できる制度を創設しました。

令和2年4月1日に施行された改正点

配偶者の居住権を保護するための制度の創設

被相続人が亡くなったとき、その配偶者が被相続人の所有する建物に居住しているというケースは珍しくありません。
そして、配偶者は、住み慣れた住環境で生活をするために建物に居住する権利を確保しつつ、生活資金も一定程度確保したいと希望することが多いと考えられます。
このような希望に応えるために、改正法では配偶者居住権と、配偶者短期居住権という制度を創設しました。

※この制度について詳しく知りたい方は次のリンク先のページをご覧ください。
●配偶者居住権・配偶者短期居住権について

令和2年7月10日に施行される改正点

法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設

自筆証書遺言は、公正証書遺言と比較して、作成するのも簡単で、費用もかからないというメリットがあります。
その反面、遺言書の紛失、相続人による遺言書の隠匿、内容が書き変えられるなど、遺言書を作成しても遺言者の意思が反映されない危険がある点で、利用しにくい制度となっていました。
改正法では、このようなデメリットを克服するために、法務局で自筆証書遺言を保管する制度を創設しました。

※この制度について詳しく知りたい方は次のリンク先のページをご覧ください。
●自筆証書遺言の保管制度について

(弁護士・畠山賢次)

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