「すべての遺産を長男に相続させる」。
被相続人がこのような遺言書を残していた場合、他の相続人はまったく遺産をもらうことができないようにも思えます。
あるいは、被相続人が生前に特定の相続人や愛人に財産の大半を贈与していた場合、他の相続人はもはやお手上げのようにも思えます。
しかし、これらの場合でも、遺留分(遺留分侵害額請求)という制度があり、一定範囲の法定相続人は一定割合の遺産を取り戻す権利があります。

どの範囲の法定相続人に遺留分の権利があるのかについては、次の表のとおりとなります。

① 法定相続人が配偶者と子の場合 配偶者:相続分の1/4
子:相続分の1/4
② 法定相続人が配偶者と父母の場合 配偶者:相続分の1/3
父母:相続分の1/6
③ 法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 配偶者:1/2
兄弟姉妹:遺留分なし

※同順位の相続人が複数いる場合には、人数に応じて均等割りとなります。

例えば、被相続人の遺産が3000万円、法定相続人が配偶者と長男・二男、遺言書の内容が「すべての遺産を長男に相続させる」というケースでは、遺留分の権利として、配偶者には750万円(3000万円×1/4)、二男には375万円(3000万円×1/4×1/2)が認められることになります。

つまり、このケースで二男が長男にすべての遺産が渡ることをよしとしなければ、二男が長男に対して遺留分の権利を行使することで(遺留分侵害額請求)、375万円を取り戻すことができるのです。
ただし、遺留分侵害額請求は、問題となる遺言書の存在や生前贈与などの事実を知ってから1年以内、または相続の開始(被相続人の死亡)から10年以内に行わなければ、時効で請求の権利を失ってしまうため、注意が必要です。

なぜ遺留分(遺留分侵害額請求)の制度が存在するのかと申しますと、遺産相続には遺族の生活保障といった機能もあるところ、遺言書や生前贈与の結果、遺産をまったく取得できない相続人や、遺産の取得分が極端に少ない相続人が出てきたときに、そのような相続人を救済しようという趣旨の制度なのです。

そして、このような遺留分(遺留分侵害額請求)の制度が存在することから、被相続人が遺言書や生前贈与で自分の財産を思い通りに動かすことには、一定の制約がかかることになります。
すなわち、遺言書を作成する際には、例えば「長男に多くの財産を引き継がせたいと思っているが、一定割合は二男に相続させてやるようにしないと、遺留分を巡って長男と次男が骨肉の争いを繰り広げるかもしれない」などといった考慮も必要となってくるでしょう。

このように、遺留分(遺留分侵害額請求)については、遺産相続や遺言書作成の際に知らないと怖い重要な制度であると言えます。
遺言書の作成を検討されるときは、遺留分との関係について、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
また、遺留分侵害額請求をしたい場合、あるいは遺留分侵害額請求をされた場合についても、その対応について専門家である弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
遺留分(遺留分侵害額請求)に関することでご不明の点やお困りのことがありましたら、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。

(弁護士・木村哲也)

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