相続放棄をするためには、家庭裁判所で相続放棄の申述(申立て)の手続を行わなければなりません。
このページでは、相続放棄の手続の流れについて、解説させていただきます。
①遺産の調査
相続放棄をするかどうかを決めるに当たっては、まずは被相続人の遺産の内容を調査する必要があるのが通常です。
相続放棄とは、プラスの遺産(資産)およびマイナスの遺産(負債)の全てを放棄する手続であるため、プラスの遺産がマイナスの遺産を上回っている場合には、相続放棄をすると損をしてしまうからです。
もっとも、同居しているご家族などでああれば、ことさらに遺産の調査をしなくても、「資産がほとんどないのに対して、多額の借金がある」などといった被相続人の財産状況を把握しているケースも多いと思います。
また、相続放棄の目的が、遺産の有無や内容にかかわらず、相続争いに巻き込まれたくないという理由でしたら、遺産の調査を行わずして相続放棄を進めるという選択もあり得ます。
プラスの遺産(資産)としては、現金、預貯金、不動産(土地・建物)、動産(自動車、貴金属、機械類、家具、ブランド品、美術品など)、株式や投資信託などのほか、貸金や売掛金などの債権も含まれます。
これらの資産は、被相続人の遺品の確認をする中で発見されることもあれば、被相続人宛てに送られてくる郵便物を見て判明することもあります。
また、預貯金については、地域の主要な金融機関に名寄せ(残高証明書の交付)を申請することで調査ができますし、不動産については住所地等の役所・役場で名寄帳の交付を受けることで所有不動産の有無および評価額を知ることができます。
さらに、株式や投資信託については、被相続人が取引をしていた証券会社に照会することで、取引情報を開示してもらうことができます。
マイナスの遺産(負債)についても、被相続人の遺品や被相続人宛ての郵便物から見つかることがあります。
また、「CIC」や「JICC」、「全国銀行個人信用情報センター」といった信用情報機関に信用情報の開示を申請することで、貸金業者との取引状況を調査することが可能です。
個人からの借入については、調査が困難なことも多いですが、例えば、被相続人の手帳やノートに複数の個人名および金額が記載されているケースでは、個人からの借入が複数存在する可能性が高いと言えるのではないでしょうか。
なお、被相続人の遺産について十分な調査をしないまま、プラスの遺産(資産)だけを消費等してしまうと、法律上、プラスの遺産もマイナスの遺産も引き継ぐことを承認したものとみなされるおそれがあります(これを、「単純承認」と言います)。
被相続人の遺産を取り扱うに当たっては、十分にご注意いただきたいと思います。
②相続放棄の期間伸長
相続放棄の手続は、被相続人が亡くなったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。
この3か月の期間を経過すると、相続を単純承認したものとみなされ、もはや相続放棄をすることができなくなってしまいますので、ご注意いただきたいと思います。
しかし、場合によっては、3か月以内に相続放棄をするかどうかの判断をすることが難しい場合もあります。
例えば、被相続人の遺産の調査に時間がかかったり、思わぬ被相続人の借金が判明したりした場合などです。
このような場合には、家庭裁判所に対して、相続放棄の期間を延長してもらうように申立てをする手続があります。
この申立てを「相続の承認又は放棄の期間伸長の申立て」と言います。
もっとも、期間の延長が認められるためには、家庭裁判所にそのような延長をする必要性があると判断してもらうことが要件となります。
この点、もし家庭裁判所が延長の必要なしと判断すれば、期間の延長は認められません。
このように、必ずしも期間の延長が認められるわけではありませんので、できる限り、3か月以内に結論が出せるように被相続人の遺産の調査を進めるべきであると言えます。
③相続放棄の申述書の作成
相続放棄をして被相続人の遺産を引き継がないようにするためには、家庭裁判所に対して、相続放棄の申述(申立て)の手続をしなければなりません。
相続放棄の申述の手続を行う家庭裁判所は、全国にある家庭裁判所のうち、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
なお、上記の相続放棄の期間伸長の手続についても、同様に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行うことになります。
相続放棄の申述については、相続放棄の申述書という書面を提出する方法によって行います。
相続放棄の申述書には、申述人(相続放棄の申述をする相続人)や被相続人の情報、把握している被相続人の遺産の内容、相続放棄をしたい理由などを記載します。
そして、相続放棄の申述書は、申述人の戸籍謄本、被相続人の除籍謄本、遺産に関する資料などの一定の添付書類を合せて提出する必要があります。
相続放棄の手続を3か月の期間内に確実に行うためには、こうした書類の収集に要する時間も考えて、余裕を持って準備を進めていくことが大切です。
④相続放棄の申述書の提出
相続放棄の申述書の作成を終えて、必要な添付書類が揃ったら、それらを被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出することで、相続放棄の申述(申立て)を行います。
相続放棄の申述に当たっては、家庭裁判所に収入印紙と郵便切手を合わせて提出しなければなりません。
収入印紙の金額は、申述人(相続放棄の申述をする相続人)1人当たり800円です。
郵便切手の金額や内訳については、各地の家庭裁判所によって異なりますので、電話で問い合わせるなどして確認のうえ、用意することとなります。
⑤家庭裁判所からの照会への回答
相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出した後、家庭裁判所から申述人(相続放棄の申述をした相続人)に宛てて、相続放棄の意向に間違いがないか等を確認する内容の照会書が送付されてきますので、これに回答を記入して家庭裁判所に返送・提出します。
照会書が送付されてくるのは、通常、相続放棄の申述書の提出後、数日から1週間くらいになります。
なお、相続放棄の申述書の内容や添付書類に不明点や不備がある場合には、家庭裁判所から問い合わせや書類の追加提出が求められることがあります。
このような場合には、家庭裁判所の指示に従って、問い合わせ事項への回答や、追加提出書類の収集・提出に対応していくこととなります。
⑥相続放棄の申述の受理
家庭裁判所からの照会への回答が終わると、家庭裁判所で相続放棄の申述(申立て)を受理するかどうかの審査が行われます。
相続放棄の3か月の期限を経過しているとか、被相続人の遺産を売却したなど、単純承認に該当することが家庭裁判所にとって明らかであれば、相続放棄の申述が却下されてしまいます。
しかし、そのような場合に該当しなければ、家庭裁判所は相続放棄を受理する判断をし、「相続放棄申述受理通知書」を申述人(相続放棄の申述をした相続人)宛てに発行・送付します。
なお、相続放棄の申述が受理される前までであれば、相続放棄の申述を取り下げることが可能です。
しかし、相続放棄の申述が受理された後は、もはや相続放棄を撤回することはできません。
したがって、相続放棄をするかどうかの判断は慎重に行っていただければと存じます。
もし万が一、相続放棄の申述書を提出した後に心変わりをした場合には、速やかに相続放棄の申述の取下げを家庭裁判所で行う必要があります。
⑦相続放棄の申述受理証明書の交付
相続放棄の申述(申立て)が受理された後、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらうことができます。
その際、150円分の収入印紙が必要となります。
相続放棄申述受理証明書は、上記の申述人(相続放棄の申述をした相続人)宛ての相続放棄申述受理通知書とは異なり、対外的に相続放棄の申述が受理されたことを証明するための書類です。
被相続人の債権者である金融業者との関係で言えば、相続放棄申述受理通知書の写しを示すなどすれば、以後の申述人への請求を中止してくれるのが通常です。
したがって、被相続人の債権者との関係においては、相続放棄申述受理証明書の取り付けが必要となることはあまりありません。
もっとも、被相続人名義の預貯金の解約手続を行う際など、正式な証明書の添付が求められる場合には、相続放棄申述受理証明書の取り付けが必要となることがあります。
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