1 特別受益とは

特別受益とは、被相続人が一部の相続人にだけ、特別に与えた利益のことを指します。
一部の相続人のみに与えたものを指すため、相続人以外のものに与えたものは特別受益には当たらないこととなります。

2 特別受益とされる贈与の種別

特別受益の例として、民法の規定では婚姻のため、養子縁組のため、あるいは、生計の資本として贈与したものなどが挙げられています(民法903条)。
特別受益に当たるかどうかは、被相続人の資産、生活状況、受益の金額、他の相続人との公平性などを勘案して判断されます。
また、何より、特別受益時の価値観によっても左右されます。

例えば、戦後間もなくであればともかく、現在では大学の進学率が向上していることから、特定の相続人のみが大学の学費を負担してもらったとしても、特別受益に当たるとは認めづらいでしょう。
また、一部の相続人にのみ援助していたとしても、その相続人に稼働能力がない場合には、扶養の範囲内のものであるとして、特別に与えた利益とは評価されない場合もあるでしょう。

一方で、特定の相続人のみが海外留学の費用を負担してもらった場合や、医学部などの高額な学費を負担した場合には、他の相続人とのバランスを考えると、特別受益に当たると認められる場合もあるでしょう。

そして、特別受益に当たるのは、生前に与えたもの(生前贈与)だけでなく、遺贈も含まれます。

3 特別受益は遺留分の対象?

遺留分とは、相続に際して、一定の範囲の相続人に対し、被相続人の財産のうち、一定の割合を引き継ぐことを保障する遺産の取り分のことを言います。

どのように算出されるかといいますと
【遺留分の基礎となる財産】=【遺産】+【生前贈与】-【債務】
として計算されます(厳密には、遺留分額は、これに遺留分権者の法定相続分を乗じた金額により算出されます)。

このうち、被相続人の生前に行われた特別受益は、【生前贈与】に当たります。もっとも、【遺留分の基礎となる財産】に加えられる【生前贈与】は、原則として、相続開始前の10年以内になされたものに限定されます。
つまり、相続開始から10年以上前に行われた特別受益は、遺留分の対象外となります。

なお、被相続人が特別受益の持ち戻し免除の意思を有していたとしても、遺留分の算定にあたっては影響するものではなく、持ち戻しの免除の意思を有していない場合と同様、当該財産は【遺留分の基礎となる財産】の一部として計算されることになります。

4 遺留分侵害額請求のポイント

まず、遺留分侵害額請求を行うにあたっては、被相続人が死亡した事実と、問題となる生前贈与や遺贈があったことを知ったときから1年以内に請求しなければなりません。
この期間が経過すると消滅時効が成立します。
また、相続開始の時点から10年間経過した場合も、どの時点で知ったかにかかわらず、請求することができなくなります。

このように、遺留分侵害額請求を行うには、期限が設けられているため、相手方から「請求を受けていない。」、「時効が完成してから請求を受けた。」と言われないようにするために、請求にあたっては内容証明郵便の方法により請求するのが確実です。

5 特別受益による遺留分の侵害を請求できるケース

例えば、相続人が被相続人の3人の子ども(A、B、C)であったとします。
被相続人の財産は3000万円でしたが、Aに対して1800万円、BとCに対して600万円ずつ、とする遺言書があったとします。
この場合、BとCのもらえる財産はAよりも少ないものの、遺留分に該当する金額(本件では1/6である500万円)を下回っているわけではないため、BとCはAに対して遺留分侵害額請求を行うことはできません。

これに対し、上記の事情に加え、実際には、相続開始前から10年以内にAが1200万円の特別受益を受けていた、という場合はどうでしょうか。
この場合は、【遺留分の基礎となる財産】は3000万円+1200万円=4200万円となります。
したがって、この場合には、BとCの遺留分に該当する金額も、4200万円×1/6=700万円と変わり、これはBとCが実際にもらうことができる金額を上回ることになります。
そのため、BとCはAに対して100万円ずつ遺留分侵害額請求を行うことができます。

6 特別受益や遺留分に関するお悩みは当事務所にご相談ください

上記のように、遺留分侵害額請求を行うにあたっては、特別受益の有無および金額によって侵害額が左右されます。
また、そもそも被相続人から相手方にされた生前贈与が特別受益に当たるのかということも争われることがあり得ます(実際に、当事務所の弁護士が経験した事案では、相手方の弁護士から、特別受益ではなく扶養の範囲内の援助に留まるものである、と反論をされた事例があります)。

何より、遺留分侵害額請求を行う期限も、1年間の期間が設けられてはいるものの、実際にはかなり短く感じることでしょう。
例えば、被相続人の死亡後すぐに遺言書が見つかったとします。
もっとも、死亡後すぐだと、葬儀や役所への届け出などで色々と慌ただしいですし、あっという間に四十九日を過ぎるでしょう。
その上、被相続人の生前は相続人間で仲がよかったものの、死後に不仲になったり、遠方にいる相続人とはなかなか連絡が取れなかったりと、遺産の分配がスムーズにいかないことは決して珍しいことではありません。
そして、自分自身も仕事や家庭があるようであれば、遺産や遺留分のことにばかり時間をかけてはいられません。
このように、1年間というのは、あれこれとしているうちにあっという間に過ぎるものです。

このようなことから、特別受益や遺留分に関して、ご不明な点がある場合には、速やかに相続に強い弁護士に相談をすることをお勧めいたします。
当事務所では、これまで遺留分に関して多数のご相談・ご依頼を受けており、取扱経験が豊富な弁護士が在籍しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

(弁護士・下山慧)

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