当事務所では、相続放棄に関するご相談・ご依頼を多数お受けしております。
その中には、被相続人が自殺をした場合の相続放棄に関するご相談・ご依頼も珍しくありません。
被相続人が自殺をした場合の相続放棄には様々な注意点がありますので、以下でご説明させていただきます。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が遺産の相続をすべて放棄することです。
被相続人の遺産を相続する場合には、預貯金・不動産などのプラスの財産だけでなく、借金・税金などのマイナスの財産も引き継ぐこととなります。
そのため、マイナスの財産の方が多い場合には、相続放棄をするのがよいでしょう。
相続放棄は、単に「相続を放棄します」と宣言すれば足りるというものではありません。
法律が定める期限内に、相続放棄の申述書を作成し、家庭裁判所に提出するなどの手続を踏む必要があります。
被相続人が自殺をした場合に相続放棄を検討する理由
【相続放棄を検討する理由の例】
□被相続人は、プラスの財産をほとんど持っていないと考えられる。
□被相続人が借金を抱えている。あるいは、その可能性がある。
□被相続人が税金を滞納している。あるいは、その可能性がある。
□被相続人の財産状況は不明であるが、後々借金・税金などマイナスの財産が明らかになり、支払の請求を受ける事態は回避したいと考えている。
□被相続人が賃貸アパート・マンションの室内で自殺をしたため、大家から損害賠償請求を受ける可能性がある。
□被相続人が電車に飛び込み自殺をしたため、鉄道会社から損害賠償請求を受ける可能性がある。
被相続人が自殺をした場合には、以上のような理由から相続放棄を検討することが多いように見受けられます。
相続放棄の期限とその起算点
相続放棄は、相続開始(被相続人の死亡)を知った時から3か月以内に手続を行わなければならないのが原則です。
この3か月の期限のことを「熟慮期間」と言います。
熟慮期間は、上記のとおり、被相続人の死亡を知った時から3か月です。
自殺のケースでは、警察により遺体が発見され、「まだ確定というわけではないが、状況的に本人であると思われる」という趣旨の連絡が、警察から家族・親族宛てに入る、という例がよく見られます。
この場合、遺体の本人確認はDNA鑑定等により行われますが、後日警察から「本人であることが間違いないと確認できた」という連絡を受けた時点をもって、被相続人の死亡を知ったと判断してよいでしょう。
そのため、警察からそのような連絡を受けてから3か月以内に、相続放棄の手続をとるようにしましょう。
また、被相続人の配偶者は必ず法定相続人となり、子がいる場合には子(子が死亡していれば孫)が第1順位の法定相続人です。
子が全員相続放棄をすれば相続権が第2順位の親・祖父母(直系尊属)に移り、親・祖父母が全員相続放棄をすれば相続権が第3順位の兄弟姉妹(死亡している兄弟姉妹に子がいる場合には甥姪)に移ります。
誰も相続することがないようにするためには、配偶者・子、親・祖父母、兄弟姉妹の順に相続放棄していく必要があります。
この場合、親・祖父母は、子が全員相続放棄したことを知った時点から、3か月以内に相続放棄の手続を取る必要があります。
また、兄弟姉妹は、親・祖父母が全員相続放棄をしたことを知ってから、3か月以内に相続放棄を行う必要があります。
この場合の3か月の起算点は、被相続人が死亡したことを知った時点ではありません。
注意すべき法定単純承認事由
相続放棄における注意点の一つに、「法定単純承認事由」があります。
「法定単純承認事由」とは、「このような行為をすれば、単純承認(プラスの遺産もマイナスの遺産も全て引き継ぐこと)したとみなされる」事項のことを言います。
「法定単純承認事由」にあたる場合には、たとえ相続放棄をしたとしても、被相続人が抱えるマイナスの財産を引き継ぐこととなってしまいます。
民法上、①相続人が遺産の全部または一部を処分したとき、②被相続人の死亡を知ってから3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続を取らなかったとき、③相続放棄をした後であっても、遺産の全部または一部を隠匿、あるいは私的に使い込んだりしたとき、が「法定単純承認事由」とされています。
特に注意が必要となるのは、「①相続人が遺産の全部または一部を処分したとき」です。
被相続人の現金・預貯金から被相続人の借金・税金を支払った場合には、法定単純承認事由にあたると考えられます。
一方で、法定相続人の現金・預貯金から被相続人の借金・税金を支払った場合には、法定単純承認事由にはあたらないと考えられます。
ただし、そもそも、被相続人の借金・税金の支払を免れるために相続放棄をするのですから、法定相続人の自費であっても基本的には支払わないようにしましょう。
また、被相続人の現金・預貯金から葬儀費用を支出した場合には、一般的に許容される範囲の葬儀費用にとどまる限り、法定単純承認事由にはあたらないとされる可能性があると考えられます。
しかし、どこまでが許容される範囲か?という問題もあり、ミスを発生させないようにするためには、被相続人の現金・預貯金には基本的に手を出さないことをお勧めいたします。
葬儀関係の費用についても、法定相続人が自費で支払うのがよいでしょう。
そして、自殺をした被相続人が賃貸アパート・マンションに住んでいた場合、家族・親族としては被相続人の遺品を搬出・処分し、部屋を明け渡すという対応が必要となることもあるでしょう。
この時、被相続人の遺品の多くを処分せざるを得ないことも多いですが、財産的価値がないような家具・家財等を処分する限りでは、法定単純承認事由にはあたらないと考えられます。
被相続人の遺品を形見分けする例も見られますが、財産的価値がないような衣服や身の回りのものを取得する限りでは、法定単純承認事由にはあたらないと考えられます。
一方で、財産的価値が高い遺品を取得・売却したり、被相続人の遺産を分配する遺産分割を行ったり、被相続人の債権の取り立てを行ったりすれば、法定単純承認事由にあたることになりますので、注意が必要です。
法定単純承認事由については、特に注意が必要となる事項ですので、相続放棄をお考えの場合には、まずは弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
法律の専門家である弁護士に「法定単純承認事由にあたらないようにするためのアドバイス」を求めるようにしましょう。
弁護士にご相談ください
当事務所では、これまでに、相続放棄に関するご相談・ご依頼を多数お受けして参りました。
被相続人が自殺をした場合の相続放棄についても、対応経験・解決実績が豊富にございますので、ぜひ一度、お気軽に当事務所にご相談ください。
(弁護士・木村哲也)