相続放棄をする場合、原則として、被相続人名義の家に住み続けることはできません。
住み続けるためには、その家を購入するなどの対応をとる必要があります。
なお、配偶者の場合には、配偶者短期居住権により、住み続けることが可能ですが、家の取得者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れると、6か月で出ていかなければなりません。

被相続人と生前に同居していたということは、法律的には、「所有権者である被相続人の許諾を得て、被相続人自身による使用の一環として居住していた」と考えることになります。
ですから、被相続人が亡くなってしまうと、被相続人自身が使用するということもありませんので、同居人が住み続ける法律上の根拠も失われてしまうのです。
相続をする場合は、被相続人の権利の全部または一部を引き継ぎますので、引き継いだ所有権(または持分権)に基づいて居住することができます。
これに対し、相続放棄をしてしまうと、これも不可能ということになります。

1 被相続人の配偶者の場合

平成30年の民法改正で創設された、配偶者居住権・配偶者短期居住権という制度があります。
これは、被相続人が亡くなったときに、配偶者が居住場所に困らないように、居住権を確保するためのものです。

【配偶者居住権】
配偶者居住権とは、基本的に、配偶者が存命の限りその家に住み続けることができるという権利です。
しかし、配偶者居住権は、遺産分割や遺贈によって取得できるものなので、相続放棄をしてしまうと、配偶者居住権を取得することができません。

【配偶者短期居住権】
配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人名義の家に無償で住んでいた時に、被相続人が亡くなった後も、一定の期間はそのまま住み続けることができるという権利です。
配偶者短期居住権は、相続をするかしないかに関わらず、無償で住んでいれば発生する権利なので、相続放棄をしても取得することができます。
もっとも、以下のように、一定の期間が経過すると、配偶者短期居住権は消滅してしまうので、家を出ていかなければならない可能性があります。

①他の相続人などが家を相続した場合

他の相続人などが、相続または遺贈によって家の所有権を取得した場合、その人はいつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができます。
この場合、配偶者短期居住権は、消滅の申入れをした日から6か月で消滅することとなります。
配偶者短期居住権の消滅の申入れがない場合、配偶者短期居住権は消滅せず、それまでの間は家に住み続けられるということになります。

②相続人全員が相続を放棄し、相続財産清算人が選任される場合

相続放棄の理由が被相続人の借金の場合、他の相続人も相続放棄をすることが考えられます。
相続人の全員が相続放棄をし、相続人がいなくなった場合、被相続人の財産を管理するために、相続財産清算人が選任される可能性があります。
相続財産清算人の権限と配偶者短期居住権の関係についての実務の運用はまだ明らかではありません。
もっとも、配偶者短期居住権は、あくまで一時的な居住を確保するための制度ですので、相続財精算理人が選任されてもなお住み続けられるといった運用にはならないと思われます。
そのため、相続財産清算人に対しては配偶者短期居住権を対抗できない(主張できない)という前提で、退去を求められる可能性があります。
あるいは、相続財産清算人も配偶者短期居住権の消滅の申入れができると解釈して、①と同様に消滅の申入れをするということになるかもしれません。
どのような対応をとるかは相続財産清算人にもよりますが、いずれにせよ、家に住み続けることはできないと考えられます。

③相続人全員が相続を放棄し、相続財産清算人も選任されない場合

相続人の全員が相続放棄をした場合でも、常に相続財産清算人が選任されるわけではありません。
相続財産清算人は、自動的に選任されるものではなく、利害関係人等の申立てによって選任されるものだからです。
そのため、被相続人の財産を取得したい人など、相続財産清算人の選任を望む人がいない限り、相続財産清算人は選任されないということになります。
その場合には、配偶者短期居住権の消滅の申入れをする人もいないため、配偶者短期居住権が消滅せず、無償で家に住み続けられるといった運用になると思われます。
なお、いずれかの時点で相続財産清算人が選任された場合、②のような運用になると思われます。

2 相続放棄をしたうえで住み続けるための対策

相続放棄をしたあとは、原則的にはその家に住み続けることができません。
住み続けるためには、以下の対応が考えられます。

(1) その家を購入する

相続放棄をしても、その家を購入することは可能です。
家を購入してしまえば、住み続けることができるのは当然です。
方法として、他の相続人に家を相続してもらって、その相続人から家を購入することが考えられます。
相続人全員が相続放棄をし、相続財産清算人が選任された場合、相続財産清算人と交渉して家を購入することになります。

(2) 他の相続人との合意

他の相続人が相続放棄をせず、家の所有権を相続したのであれば、その相続人と話し合って、その家に住まわせてもらうことが考えられます。
その相続人が、無償で住み続けても良いと言ってくれるのであれば、そのまま住み続けることもできます。
そうでなくとも、一定の賃料を支払うものとして賃貸借契約を締結するのであれば、応じてもらえる可能性はあるでしょう。