1 代表者個人の財産と会社の財産・経営権

代表者個人名義の預貯金や代表者個人が所有する不動産等の財産は、一般的な相続の場合と同じく遺産分割の対象となります。

一方で、会社は法人であり、代表者個人とは別の権利主体です。
そのため、会社が保有する財産は、会社が権利を保持する状態が続くのであり、遺産相続の問題となることはありません。
会社は代表者個人の所有物というわけではありませんので、社長・代表取締役などのポストや経営権自体も、相続の対象とはなりません。
もっとも、会社経営者は、自身でその会社の株式を所有していることが多いでしょう。
その場合には、株式は会社経営者が個人で所有する財産であるため、その株式が遺産相続の対象となります。
この株式の相続は、実質的には会社経営権の相続と言い得るものであり(つまり、会社経営権自体は相続の対象ではありませんが、株式を相続で取得することにより、株式の効力である会社経営権を引き継ぐことができるのです)、会社経営者に特有の相続問題となります。

2 株式の相続・経営権について

株式を所有する経営者・会社社長が亡くなった際に、生前に遺言書が作成されていれば、その遺言書に従って株式の取得者が決められることになります。
遺言書が作成されていなければ、遺産分割協議によって株式の取得者を決めていくことになりますが、遺産分割協議が成立するまでの間は、法律的には、株式は各相続人の共有(法律上は、「準共有」と言います)という取り扱いになります。
そして、この共有に関し、法律上、株式の処分(売却や担保の設定)には相続人全員の同意、株主総会における議決権の行使等には相続人の過半数の同意が必要になります。

具体例を挙げて考えてみます。
会社の社長が株式を100株所有している場合で、相続人が配偶者と子1人の合計2人いるとします。
会社の社長が亡くなって相続が発生すると、遺産分割の成立前の段階では、各相続人が100株の株式を2分の1に分けて保有する(つまり、配偶者と子が50株ずつ保有する)というのではなく、あくまで100株の株式全体を2人で共有するという取り扱いがされることになります。
そして、この事例において、社長以外の第三者が50株の株式を保有していると仮定してみます。
株主総会においてある議案を可決する場合、原則的な決議には過半数の同意が必要となりますが、50株の株式を所有している第三者のみでは全株式の過半数に満たないため、可決させることはできません。
そこで、亡くなった社長の配偶者と子が共有する株式についての権利行使が必要となりますが、その株式は共有となっているため、過半数の同意が必要となります。
配偶者と子では法定相続分が2分の1ずつとなるため、過半数の同意があるというためには、配偶者と子の両方の同意がなければ、株主総会での意思決定ができないことになります。

このように、相続人全員の同意がなければ会社の意思決定ができなくなる事態が生じるため、会社にとっては元来特定の経営者1人で意思決定が可能であったものを、複数の相続人を関与させる必要に迫られることになり、経営上の煩雑さを避けられません。

3 相続後の会社の運営について

このような煩雑な事態となることに備えて、会社法や判例に基づく手当てもあります。
会社法106条では、株式が2人以上の共有に属するときには、共有者は、その株式についての権利を行使する者を1人定めて、会社に対して通知しなければ、株主としての権利行使をすることができないと定められています。
また、この規定に基づく権利行使者の指定ができない場合には、判例上、共有者の過半数の同意によって株主総会の議決権を行使できることが認められています。
このように、法令上および判例上、いくつかの手当てが存在しますが、そもそも株式について遺産分割の問題が発生し、経営者の意図しない人物に株式が帰属すること自体が、このような煩雑さを招いていると言うことができます。

4 相続問題の解決方法

それでは、会社経営に特有の相続問題の発生を避けるためには、どのような対策が有効なのでしょうか。

(1) 遺言書の作成

まず第一に考えられるのが、遺言書を作成しておくことです。
経営者の相続には経営権の相続という特有の問題が発生しますので、この特有の事情をうまく解決できる遺言書を作成する必要があります。
会社経営には、取引先、社員、経営者の親族など、多くの利害関係者が関与していることでしょう。
このような利害を持つ人たちから十分に言い分を聞いた上で、将来的に、株式や経営権の帰属をめぐって紛争が発生しないように十分に配慮し、できる限り利害関係者の大部分が納得できる内容の遺言書を作成する必要があります。
このような配慮が欠けている場合には、費用と時間を掛けて遺言書を作成したとしても、不満のある人物が遺言書の効力を争ってきたり、遺留分の請求を行ってきたりするなど、紛争を誘発する可能性があります。
会社経営においては、まさに「時は金なり」という格言が妥当し、経営者の方がこのような紛争に巻き込まれること自体が損失となりますので、紛争予防に有効な遺言書を作成することが重要となります。
遺言書についてご不明のことがありましたら、専門家である弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

(2) 遺産分割協議・遺産分割調停

被相続人の遺言書がなければ、遺産分割の協議(話し合い)を行って株式等の相続財産の取得者を決めることになります。
遺産分割協議では、一部の相続人が納得せずに協議がまとまらないことも多くあります。
また、当事者が直接話し合いを進めることにより、感情的な対立が表面化し、協議が難航することもしばしば見られます。
このような場合には、弁護士に対応をご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士が代理人として交渉を行うことにより、円滑な解決が図られる例も多いです。
また、話し合いによる解決が難しければ、裁判所の遺産分割調停という手続きを利用することもできます。
調停では、調停委員が当事者の間に入って話し合いを仲介し、妥当な解決に導けるように手助けをしてくれます。
もっとも、調停の手続では、法的な主張を丁寧に組み立て、必要な証拠資料を提出するなどの対応が必要となりますし、調停委員を介した話し合いも容易なことではありませんので、弁護士にサポートのもとに対応するのが無難であると言えるでしょう。

5 弁護士にご相談ください

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