被相続人の死亡後に使い込まれた預金は、遺産分割の対象とはならず、他の相続人が使い込みをした者に対し、法定相続分に従って返還・賠償を求めることができるというのが原則的な取り扱いです。
ただし、相続人の1人が被相続人の死亡後に預金を使い込んだ場合、次の3つの要件を満たすときは、遺産分割の前に処分された遺産について、遺産分割の時に現に存在するものとみなし、遺産分割の対象に含めることができます。

【遺産分割の対象に含めるための要件】
①処分された財産が、被相続人の死亡時に被相続人の遺産に属していたこと。
②財産が処分されたこと。
③財産の処分をした相続人以外の相続人全員が、処分された財産を遺産分割の対象に含めることに同意していること。

遺産分割とは、遺産分割の時に現に存在する財産を相続人間で分配する手続です。
そのため、使い込まれて失われた預金は、遺産分割の対象とはならないのが基本です。
他の相続人が使い込みをした者に対し、法定相続分に従って返還・賠償を求めることができるというのが原則的な取り扱いとなります。
しかし、このような考え方を貫くと、相続人間で不公平な結果を招いてしまうことがあります。

例えば、被相続人である父には遺産として預金が2000万円あり、相続人が長男と二男の2人であり、特別受益として長男に対する生前贈与が2000万円あるとします。
この例では、法定相続分に従って遺産分割をするのであれば、生前贈与を受けた長男の相続分は0円、二男の相続分は2000万円となり、公平な結果となります。

しかし、長男が被相続人の死亡後に、預金から1000万円を払い戻して使い込んだ場合には、上記のような考え方を貫くと、不公平な結果となってしまいます。
遺産分割の対象となる現に存在する預金が1000万円となるところ、生前贈与を受けた長男の相続分は0円となり、1000万円は二男に渡ることとなります。
そして、使い込まれた1000万円は、二男が長男から法定相続分(2分の1)に従って500万円(1000万円×2分の1)の返還・賠償を受けられるにとどまります。
以上により、最終的に二男の手元には合計1500万円しか渡らず、不公平な結果となるのです。

そこで、このような不公平を是正するための制度として、遺産分割前の遺産の処分の取り扱いに関する制度が存在します。
具体的には、相続人の1人が被相続人の死亡後に預金を使い込んだ場合、次の3つの要件を満たすのであれば、遺産分割の前に処分された遺産について、遺産分割の時に現に存在するものとみなし、遺産分割の対象に含めることができます。

遺産分割の対象に含めるための3つの要件は、次のとおりです。
①処分された財産が、被相続人の死亡時に被相続人の遺産に属していたこと。
②財産が処分されたこと。
③財産の処分をした相続人以外の相続人全員が、処分された財産を遺産分割の対象に含めることに同意していること。

上記の事例では、長男によって使い込まれた1000万円を遺産分割の対象に含めることを二男が希望すれば、使い込まれる前の預金2000万円がすべて遺産分割の対象に含まれることとなります。
これにより、二男に相続分として2000万円が確保され、結果の公平性が保たれることになるのです。

なお、この制度の対象となるのは、被相続人の死亡後の財産の処分だけであり、被相続人の生前の預金の使い込みには適用がありません。
被相続人の生前の預金の使い込みは、遺産分割とは別途、返還・賠償の請求をするべきであるというのが法的な取り扱いとなります。
実際、遺産分割の調停や審判での審理が困難であることも多いです。