相続放棄をした場合には、マイナスの遺産(負債)については支払を免れることができるのですが、残されたプラスの遺産(資産)についてはどのように取り扱えばよいのか?という問題があります。

この点、相続放棄をした相続人の手元に、被相続人の遺品として、被相続人が生前身に着けていた衣類や身の回りの物が残るケースが多くあります。
このような遺品については、経済的価値が高くないものが多くを占めるのが通常であるため、相続人や親族同士で形見分けをし、誰も取得を希望しないものについては、廃棄する形で整理して問題がないことが多いでしょう。
年式が相当古く、経済的価値がない自動車についても、廃車にして問題がないのが通常です。

一方で、プラスの遺産のうち、現金・預貯金や株式などの有価証券、貴金属類、不動産、年式が比較的新しい自動車など、経済的価値があるものについては、売却・処分したり、取得・費消したりすれば、法定単純承認事由に該当するものとして相続放棄が無効となり、マイナスの遺産の相続を免れなくなるおそれがあります。
この点には十分にご注意いただく必要があります。
では、プラスの遺産のうち、経済的価値があるものについては、どのように取り扱えばよいのでしょうか?

民放940条1項では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と定められています。
すなわち、相続放棄をしたからといって、相続放棄時に手元にあるプラスの遺産の管理責任を免れるわけではありません。
例えば、被相続人の妻子が相続放棄をした場合には、相続権は被相続人の父母に移り、被相続人の父母が相続放棄をした場合やすでに死亡している場合には、被相続人の兄弟姉妹・甥姪に相続権が移ることになりますが、相続放棄をした被相続人の妻子としては、相続権を得た被相続人の父母や兄弟姉妹・甥姪が遺産を受け取るまで、相続放棄時に手元にある遺産の管理責任を負うことになるのです。
そして、問題となることが多いのは、全員相続放棄をしたために遺産の引き受け手がいない場合です。
特に、相続放棄をする場合というのは、被相続人が多額の負債を抱えていることが多く、全員相続放棄をしたために遺産の引き受け手がいないという事態は多々発生します。

全員相続放棄をした場合、相続放棄時に手元にあるプラスの遺産のうち、現金・預貯金や株式などの有価証券、貴金属類などについては、自身の財産とは切り分けて預金口座や金庫で保管し、一切手を付けないようにするという管理が現実的でしょう。
何事も起こらないままに10年程度保管・管理した後に売却・処分したり、取得・費消したりすることとすれば、法定単純承認事由に該当するとしても、その時点で被相続人の負債がすべて時効にかかっているため、借金を相続してしまう危険がなくなるのが通常です。
年式が比較的新しい自動車については、車庫などで数年程度保管・管理し(運転はしないようにしてください。
また、車検を受ける必要まではないと考えられます)、古くなって経済的価値が失われた時点で廃車にするという対応が考えられます。

全員相続放棄をした場合で問題となるのは、プラスの遺産の中に不動産が存在する場合が考えられます。
この点、遺産の管理義務を負うのは「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」(民法940条1項)ですから、不動産の管理義務を負うのは当該不動産に居住しているなど現実に支配・管理している場合に限られます。
したがって、遠方に居住する相続人が相続放棄をした場合などは不動産の管理義務を負うことはありませんが、当該不動産に居住等する相続人は相続放棄をしても修繕・維持といった管理義務を免れません。
また、年式が比較的新しい自動車その他分量の多い遺産などについて、あとあと保管・管理の場所に困る場合などが考えられます。
このような場合には、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、相続財産清算人に以後の遺産の管理や売却・処分などを任せるという選択肢があります。

ただし、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる場合には、選任手続の申立費用や相続財産清算人の報酬にあてるための予納金の納付が必要となることを念頭に置く必要があります。
予納金の額は、事案の複雑性や管理すべき遺産の額などにもよりますが、20万円~100万円くらいのことが多いです。
被相続人の負債の金額がそれほど大きくなければ、相続放棄をせずに被相続人の遺産を相続し、自身で遺産を取得・管理した方が経済的というケースもあり得ます。
また、相続放棄をして被相続人のマイナスの遺産(負債)を相続することを免れる一方、相続財産清算人の選任を申し立てた上で、相続財産清算人との間でプラスの遺産(資産)を買い受ける交渉をすることなども考えられます。

以上のように、相続放棄の手続を取る際には、相続放棄後の遺産の管理なども踏まえたうえで進めていく必要があります。
また、ケースによっては、相続財産清算人の選任申立ての手続が必要となることもあります。
当事務所の弁護士は、これまでに、多数の相続放棄に関するご相談・ご依頼をお受けして参りました。
また、相続財産清算人の選任申立ての手続についても、対応実績が豊富にございます。
相続放棄や相続放棄後の財産の管理、相続財産清算人の選任申立ての件でお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。

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